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米国における高病原性鳥インフルエンザウイルスの豚への感染について
米国における高病原性鳥インフルエンザウイルスの豚への感染について
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本知見は、ホームページ掲載時点の参照資料をふまえて作成したものであり、詳細については同資料を確認いただきますよう、お願いいたします。
なお、現時点で本邦において牛および豚の高病原性鳥インフルエンザウイルス感染は確認されていません。
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1.概要1、2
本年10月25日、米国オレゴン州農務局(ODA:The Oregon Department of Agriculture)は、家きんの他に豚、めん羊、山羊を含む家畜を飼養する裏庭農場(Backyard Farm)の家きんが、オレゴン州クルック郡(Crook County, Oregon)において初めて高病原性鳥インフルエンザ(HPAI:Highly Pathogenic Avian Influenza)ウイルス(H5N1亜型)に感染していることを確認し、ウイルスの拡散を防ぐために当該家きん70羽が、ワンヘルス対応計画*に沿って迅速かつ人道的に安楽死されたと公表しました。
*ワンヘルス対応計画(One Health response plans):検疫制限、感染群や動物の人道的な安楽死、感染した家きんや動物の処分、感染施設の清掃およびウイルスの除去、サーベイランスの実施、感染動物に曝露されたヒトの監視を含む。
10月29日、米国農務省国際動植物検疫局(USDA-APHIS)は、米国国立獣医学研究所(NVSL)が、当該農場の臨床症状がない5頭の豚のうち1頭がHPAIウイルス(H5N1亜型)に感染したことを確認(2頭の検査結果は陰性、2頭は検査中)し、当該ウイルスの拡散防止および更なる分析のために全頭が安楽死されたと公表しました。
当該農場は、非営利目的であり、商業的な食料生産のための家畜および家きんを飼養していませんでした。また、飼養されていた家畜と家きんは、水源、飼養場所、資材(equipment)を共有していました。現在、当該農場は、当該ウイルスの拡散を防ぐために他の農場から隔離されるとともに、農場飼養動物は当局の監視下に置かれています。
NVSLは、当該農場の家きんのHPAIウイルス(H5N1亜型)の遺伝子配列を解析したところ、当該ウイルスはヒトに対してより感染しやすい遺伝子変異は確認されておらず、現在の当該ウイルスの公衆衛生上のリスクは引き続き低いとしています。現在、USDA、米国疾病管理予防センター(CDC)、オレゴン州関係当局、同州の獣医師、オレゴン州立大学オレゴン獣医診断研究所が、本件について調査を継続しています。また、ODAは、動物飼養者に個人用防護資材を提供し、クルック郡公衆衛生当局は、オレゴン州保健局とともに当該ウイルスに曝露した者の教育とともに監視を続けています。
2.感染状況
1)動物
(1)米国の家畜におけるHPAIウイルス(H5N1亜型)感染状況(2024年3月25日~11月1日)3
・牛:計14州*、404事例(過去30日間 ; 計2州、134事例)
*オレゴン州の乳牛における当該ウイルス感染は確認されていません
・アルパカ:計1州、1事例(過去30日間;感染事例なし)
・豚(裏庭養豚):計1州、1事例(過去30日間;同左)
(2)米国のほ乳類におけるHPAIウイルス(H5N1亜型)感染状況(2022年5月~2024年10月22日)4
(3)米国の家きんにおけるHPAIウイルス(H5N1亜型以外含む)感染状況(2022年2月8日~2024年11月2日)5
・計48州、1,197群(商用;519群、裏庭養鶏;678群)、1億520万羽(過去30日間 ; 計6州、20群(10群;商用、10群;裏庭養鶏)、442万羽)
(4)米国の野鳥におけるHPAIウイルス(H5N1亜型以外含む)感染状況(2022年1月1日~2024年10月22日)6
・計50州、10,458事例(過去30日間 ; 計2州 4事例)
2)ヒト
米国のヒトにおける鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)検査陽性事例(H5 Bird Flu)は、同国の(1)鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)又はその他の新規インフルエンザウイルス感染の可能性がある計57,000検体以上を対象とした定期的な全米インフルエンザサーベイランス(2024年2月25日以降)で1事例、(2)感染動物又は感染した可能性のある動物に曝露したヒト計6,100人を対象としたH5サーベイランス(本年3月24日以降)で43事例、計44事例です(本年11月4日時点)7。当該ウイルス感染者が曝露した動物については、牛が24例、家きんが19例、不明が1例でした。本年10月21日、欧州食品安全機関(EFSA)は、本年6月21日から9月20日にかけて米国、カンボジア、中国、ガーナで確認されたヒトの鳥インフルエンザウイルス感染者計19症例のうち、17症例(90%)は、ウイルスの検出又は発症前に家きん、生鳥市場または乳牛への曝露があったこと、また、ヒトからヒトにウイルスが伝播したことは確認されていないことを報告しました8。
CDCは、廃水中の鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)サーベイランスを行い、本年10月26日までに全米計317カ所の廃水のうち、計2つの州の6カ所(1.9%)で当該ウイルスを検出しました。CDCは、現時点で米国のインフルエンザサーベイランスシステムにおいて、鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)を含むヒトにおける異常なインフルエンザの活動の指標(indicators of unusual influenza activity in people)は認められないとのことです9。
3.対策
USDAは、飼養衛生管理がHPAIウイルス(H5N1亜型)のまん延に対する最良の武器であり、農場は、当該ウイルスが州内やその近隣で検出されていない場合でも、適正な飼養衛生管理を実践すべきと全米の農場に対して引き続き強調しています。過去7ヶ月間の知見をふまえると、酪農場と家きん飼養施設の間を含め、農場から農場へと移動する資材、ヒト、その他の物品を介して当該ウイルスが伝播する可能性が明らかとなりました。本年4月にUSDAが公表した連邦命令(5月施行)による牛の州間移動前の検査の義務付けにより、当該ウイルスのまん延はわずか14州に抑えられていますが、USDAは、飼養衛生管理強化のための地方および州の取り組みが重要であるとともに、飼養衛生管理プログラム、農場労働者の個人用防護資材、獣医師による診療などの費用の補助のために利用可能な生産者支援プログラムに家畜所有者が参加することを強く推奨しています10。
USDAおよびODAは、当該ウイルスを根絶し、農場労働者と農場経営者、それらの家族、家畜、事業者の健康保護のため、飼養衛生管理の重要性について改めて関係者に周知*しました1、2。
*ODAが関係者に周知した飼養衛生管理対策
・家きんおよび家畜の野生生物特に水鳥との接触防止
・異なる家畜、特に家きんと豚の混飼を制限
・飼養動物群を扱う前後の手洗い
・車両、工具、または資材の清掃
・不要不急の訪問者の制限
・消毒槽を用いた靴の消毒
・家きんと接触した際の服の着替え
USDAは、当該ウイルスの動物間の拡散防止のため、ワクチンの研究開発に多額の予算を投じており、乳牛を当該ウイルスから保護するための2種類のワクチン候補物質について野外安全性試験を承認するとともに、牛以外の動物種に対する防護の選択肢となるのか調査をしています2、10。
10月30日、USDA-APHISは、乳牛におけるHPAIウイルス(H5N1亜型)の流行開始以降、これまでUSDAが講じた対策をふまえ、当該ウイルスの検査とモニタリングを強化する計画があると公表しました。USDAは、州の獣医師と協力し、当該ウイルスの所在をより正確に評価するため、乳サンプルを収集するための段階的な戦略(a tiered strategy)を実践し、飼養衛生管理と当該ウイルスの封じ込め対策に関する更なる情報提供、また、当該ウイルスに感染した動物と接触する可能性のある農場労働者のリスクを軽減するための州主導の取り組みに対して情報提供することを目指しています。10。
USDAは、かつてブルセラ症*根絶に寄与したバルク乳検査の経験をふまえ、コロラド州の2つの郡の牛群からHPAIウイルス(H5N1亜型)が検出されて以降、州全体で大量のバルク乳検査を行いましたが、州内の牛群から当該ウイルスは検出されませんでした。
USDAは、開業獣医師を含む州および民間の獣医師グループと連携し、今後数週間以内に、大規模なバルク乳検査の拡大を支援する準備が整った地域や州と協力し、検査を実施予定です。まずは地域レベルで乳を大量に採材し、必要に応じて農場レベルで追加の検査を計画しており、地域の牛群からウイルスが排除されるまで実施予定です。USDAは、検査の最終的な詳細な内容については、州および民間の獣医師と引き続き協力し、近日中にガイダンス文書を関係者と共有する予定です10。
*ブルセラ症:Brucella属菌により牛、豚、鹿、めん羊、山羊に流死産などをひきおこし、生産性を著しく低下させる家畜伝染病のひとつであり、人獣共通感染症。日本は2021年4月1日に牛における清浄化を宣言。
USDAは、CDCなどとの緊密な協力の中で、動物からヒトへ、またはヒト間で感染リスクを高めるHPAIウイルス(H5N1亜型)ウイルスの最近の遺伝子変異は確認されていないとしています。感染動物と直接接触したヒトの症例は引き続き確認されていますが、CDCは、現在も当該ウイルスの一般市民へのリスクは低いとしています10。なお、CDCは、当該ウイルス感染動物が飼養されている郡の農場労働者に対して、当該ウイルス感染の潜在的なリスク、推奨される予防措置、注意すべき症状、症状が現れた場合の対処方法について、Meta(FacebookおよびInstagram)、デジタルディスプレイ、オーディオ(Pandora)、それらを利用していない者については地元のラジオ局を通じて、英語とスペイン語で情報提供しています11。
〇参照資料:
1.米国オレゴン州農務局(ODA:The Oregon Department of Agriculture)(2024年10月30日):https://odanews.wpengine.com/detections-of-highly-pathogenic-avian-influenza-in-backyard-livestock/
2.米国農務省国際動植物検疫局(USDA-APHIS)(2024年10月30日)https://www.aphis.usda.gov/news/agency-announcements/federal-state-veterinary-agencies-share-update-hpai-detections-oregon
3.USDA-APHIS(同年11月1日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/hpai-confirmed-cases-livestock
4.USDA-APHIS(同年10月29日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/mammals
5.USDA-APHIS(同年11月5日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/commercial-backyard-flocks
6.USDA(2024年11月5日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/wild-birds
7.米国疾病管理予防センター(CDC)(2024年11月4日):https://www.cdc.gov/bird-flu/situation-summary/index.html#human-cases
8.欧州食品安全機関(EFSA)(2024年10月21日):https://doi.org/10.2903/j.efsa.2024.9057
9.CDC(2024年11月1日):https://www.cdc.gov/bird-flu/h5-monitoring/index.html
10.USDA-APHIS(2024年10月30日):https://www.aphis.usda.gov/news/agency-announcements/usda-builds-actions-protect-livestock-public-health-h5n1-avian-influenza
11.CDC(2024年10月29日):https://www.cdc.gov/bird-flu/spotlights/bird-flu-response-10-29-24.html