「SARS-CoV-2 オミクロンBA2株のウイルス学的特徴」を更新しました


2021年末に最初に報告されたSARS-CoV-2 オミクロン株(BA.1株)は急速に世界各国に拡大し、SARS-CoV-2の主要な流行株となった。その後出現した異なる系統のオミクロン株であるBA.2株は、2022年3月現在、複数の国で急速に拡大しており、BA.1株に代わる主要な流行株となりつつある。このように、急速な拡大を示すSARS-CoV-2の新規株のウイルス学的特徴(伝播性、病原性、ワクチンや抗ウイルス薬に対する抵抗性等)を明らかにすることは、公衆衛生における喫緊の課題である。本研究では、日本国内の感染者からBA.2株が分離培養されるよりも前に、これらのウイルス学的特徴を検証するため、組換ウイルスを用いてハムスターモデルで感染実験を行なった。その結果、BA.2株スパイク(S)タンパク発現ウイルス株は従来株(B.1.1株)Sタンパク発現ウイルスと同等の病原性を示すことを明らかにした(図)。

 

 

図:SARS-CoV-2感染ハムスターの体重推移(% Body weight)、呼吸機能(Penh, Rpef, 皮下血中酸素濃度 [SpO2])を示す。BA.1株Sタンパク発現ウイルス感染群は非感染群と比較して、ごく軽度の体重減少、及び呼吸機能の異常を示すのみであった。一方、BA.2株Sタンパク発現ウイルス感染群は、従来株(B.1.1株)Sタンパク発現ウイルス感染群とほぼ同等の体重減少、呼吸機能の異常を示した。

 

 統計解析ではBA.2株はBA.1株と比較して、より広がりやすいことが示唆された。また、培養細胞を用いた実験では、BA.2株Sタンパク発現ウイルスはBA.1株Sタンパク発現ウイルスに比較して、高い増殖性と膜融合性を示した。これらの結果は、BA.2株はBA.1株と比較して、公衆衛生におけるリスクがより高い可能性があることを示唆している。

 

【著者からの一言】

本研究は前報「SARS-CoV-2オミクロン株の実験動物モデルでの病原性低下」に引き続き、東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」による研究成果です。我々は主にハムスターモデルにおけるSARS-CoV-2の病原性や感染に伴う呼吸機能変化の評価を担当しました。本研究では最新の組換ウイルス作成技術を用いることにより、世界に先駆けて、新たな変異株であるBA.2株のSタンパクを主体とするウイルス学的性状を明らかにしました。

 

本研究で着目したコロナウイルスのSタンパクは、ウイルスの宿主細胞への接着や侵入等の主体となる重要な表面タンパクです。一方、ウイルスの性状発現(病原性、伝播性、増殖性等)には、表面タンパクだけではなく、その他のウイルスタンパクも重要な役割を果たします。そのため、本研究で明らかにしたBA.2株Sタンパク発現ウイルスのウイルス学的特徴が、必ずしも現在流行しているBA.2株と一致するものではありません。一方で、BA.2株Sタンパク質を持つウイルスの感染拡大は、BA.1株よりも大きな被害をもたらす可能性も考えられます。今後BA.2株がBA.1株に置き換わって流行する可能性も考えられるため、適切な感染対策を続けることが重要です。

 

 

2022年5月10日 

北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所

危機分析・対応部門 講師 松野 啓太

 

引用文献情報:

Yamasoba, D., Kimura, I., Nasser H. et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 Omicron BA.2 spike. Cell (2022)

https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.04.035