第38回 One Health Relay Report(薬学研究院 前仲 勝実 教授)


第38回目は前仲先生による「創薬開発について」のお話です。

  

 前仲 勝実 教授

 薬学研究院

 生体分子機能学研究室・創薬科学研究教育センター 

 人獣共通感染症国際共同研究所 病原体構造解析部門

 ワクチン研究開発拠点 ワクチン開発部門

 

  【研究テーマ】

 ・感染症と免疫に関する蛋白質科学研究と創薬開発

 

 

 「薬やワクチンが効く現場を見よう!」

 

 新型コロナウイルスのパンデミックではワクチンや治療薬の開発が急ピッチで進められました。私たちの研究室では、多くの化合物が含まれるライブラリーを用いて治療薬候補を探索することや、中和抗体*1がウイルスタンパク質にどのように結合するのかをクライオ電子顕微鏡*2やX線回折装置などを用いて実際に見ることにより創薬研究に取り組んでいます。さらに、最近では、病原体を厳格に取り扱うバイオセイフティーレベル3(BSL3)の実験室にクライオ電子顕微鏡を設置して(世界でも例がほとんどない)、生きた状態の新型コロナウイルスの構造を観察しています。薬やワクチンが効く現場を直接見ることは、創薬開発には大変重要で、設計の指針に大きく貢献します。クライオ電子顕微鏡のような大型機器は国内外の研究者が集って、共同利用で運用しているため、共同研究が盛んに行われています。20年前では想像できないほど環境が整ってきておりますので、教員等のスタッフと学生さんと一緒にアカデミアから新薬やワクチンを導出できるように努力していきたいと考えています。

 

*新型コロナウイルスに対する中和抗体:新型コロナウイルスの表面にあるスパイク蛋白質に結合し、細胞へ侵入することを阻害することで、ウイルスの感染を防ぐことができる抗体

*液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの生体分子に電子線を照射し、試料を観察する透過型電子顕微鏡

 

     

 

 

 

 

 新型コロナウイルス SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の立体構造

 左:スパイクタンパク質3量体構造(単量体をそれぞれ青、緑、灰色で表す) 

 右:受容体結合ドメイン(RBD)と受容体ACE2(リボンモデル)との結合の様子

 

 

左:クライオ電子顕微鏡解析用サンプル作製について説明している様子(薬学部創薬科学研究教育センター)
タンパク質や細胞などの生物試料を電子線の損傷から守るために低温で観察するため、試料を急速凍結する機械を使います。
右:300kVのクライオ電子顕微鏡について説明している様子(薬学部創薬科学研究教育センター)

この装置を使って、新型コロナウイルスやそのスパイクタンパク質などの立体構造を決定しています。

 

 

 

 

 

 

 

 化合物ライブラリーの探索実験のための分注装置

 微量の化合物サンプルを正確に分注し、効果のある化合物を探索します。