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「SARS-CoV-2オミクロン株の実験動物モデルでの病原性低下」を更新しました
SARS-CoV-2オミクロン株の実験動物モデルでの病原性低下
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の懸念される変異株(VOC)であるオミクロン株は、現時点においてグローバルヘルスにおける喫緊の課題である。本研究では、ハムスターを用いた動物実験モデルにおいて、オミクロン株感染個体は、従来株(B.1.1株)やデルタ株感染個体で見られるような体重減少をほとんど示さず、オミクロン株感染による呼吸機能や血中酸素飽和度(SpO2)への影響も軽微あるいはほぼ観察されないことを明らかにした(図)。
左図:SARS-CoV-2感染ハムスターの体重推移を示す。デルタ株、B.1.1株感染ハムスターと比較して、オミクロン株感染ハムスターの体重減少は軽度であった。
右図:SARS-CoV-2感染ハムスターの血中酸素飽和度(SpO2)を示す。オミクロン株感染ハムスターのSpO2は非感染ハムスターのSpO2と同等であった。
さらに、ハムスター肺中のウイルス抗原を経時的に検出すると、従来株やデルタ株感染個体に比べて、オミクロン株感染個体では気道上皮におけるウイルス感染細胞が局所に留まることが分かった。
また、統計モデリングによると、南アフリカを含む複数の国において、オミクロン株は既存のデルタ株と比較して拡散が早いことが示唆された。培養細胞を用いた実験では、オミクロン株は、デルタ株やそれ以前のSARS-CoV-2株と比較して、スパイク(S)タンパク質の膜融合性が低いことが示された。デルタ株のSタンパク質は効率よく2つのサブユニットに開裂し、細胞間融合を促進するが、オミクロン株のSタンパク質はデルタ株や従来株のSタンパク質より開裂効率が低かった。
これらの結果から、従来株からオミクロン株へと至る進化の過程でウイルスの性質が大きく変わったことが明らかになった。特に、Sタンパク質の切断効率とウイルスの膜融合性は、ウイルスの伝播性や病原性と密接に関連している可能性が示唆された。
【著者からの一言】
本研究は東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」による研究成果です。我々は主にハムスターモデルにおけるSARS-CoV-2の病原性や感染に伴う呼吸機能変化の評価を担当しました。G2P-Japanでは、新規SARS-CoV-2変異株であるオミクロン株を国立感染症研究所から分譲いただき、世界に先駆けて培養細胞や実験動物を用いた詳細な性状解析を行いました。
新たな変異株出現に際し、その性状を速やかに明らかにし公開することは、その後の対策立案等に非常に重要です。我々人獣研チームは、今回の研究からG2P-Japanに参画しました。人獣研の誇る広いBSL3実験室を活用し、社会的に重要な研究に貢献することができました。今後も、様々な観点から人獣共通感染症のコントロールを目指して研究を進めていく所存です。
なお、SARS-CoV-2のハムスターにおける病原性が、ヒトにおける病原性と完全に一致するわけではない点については注意が必要です。また、仮にヒトにおけるオミクロン株の病原性が低下していたとしても、有症状化・重症化しなくなるということではありません。また、有症状化・重症化した際の症状が必ずしも軽くなるわけではありません。急激な感染拡大に伴う医療逼迫が起きる可能性もあるため、引き続き適切な感染対策を続けることが重要です。
2022年2月3日
北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所
危機分析・対応部門 講師 松野 啓太
引用文献情報:
Suzuki, R., Yamasoba, D., Kimura, I. et al. Attenuated fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Omicron variant. Nature (2022).
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04462-1