米国における高病原性鳥インフルエンザウイルスの牛への感染について (2)


 

米国における高病原性鳥インフルエンザウイルスの牛への感染について

「各種動物における発生動向」

 

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 本知見は、ホームページ掲載時点の参照資料をふまえて作成したものであり、詳細については同資料を確認いただきますよう、お願いいたします。

なお、現時点で本邦において高病原性鳥インフルエンザウイルスの牛への感染は確認されていません。

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1.疫学

 2024年3月22日から24日にかけて、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI:Highly Pathogenic Avian Influenza)ウイルスの感染が確認された米国の酪農場敷地内で野鳥(ハト、クロウタドリ、クロムクドリモドキ)の死体が確認されたとの報告があり、テキサス州の調査結果によれば、ウイルスは野鳥によって農場に持ち込まれたと考えられます12

 8つの州のHPAI検査陽性の牛の群れと、2つの異なる州の計2つの近代的な商用家きん飼養施設で確認されたHPAIウイルスの全ての遺伝子の塩基配列を比較すると、このウイルスは乳牛と家きん双方に感染し得ることが分かりました。このような遺伝学的および疫学的データをふまえると、ウイルスの拡散状況は正確に把握されていませんが、HPAIウイルスは生乳中に高濃度に排出されるため、例えば他の動物、車両、その他の物品が低温殺菌されていない生乳や、こぼれた生乳などと接触することでHPAIウイルスを拡散させる可能性があります。したがって、米国当局は、酪農関係者及び家きん生産者は、飼養衛生管理の取り組みを強化し、動物群の疾病の監視及び制御に関して留意するよう注意喚起しています。さらに、HPAI(H5N1亜型)ウイルスのさらなる拡散リスクを低減するため、2024年4月24日、APHISは、連邦命令(Federal Order)を発表し、州間を移動する泌乳している乳牛の移動前検査と、すべての検査機関および州動物衛生当局(SAHO)から陽性検査結果の当局への報告を義務付けました3

 これまでの当局の調査によれば、HPAIウイルス拡散が牛の群れの間の移動に関連した事例が複数あり、さらに、現時点で疫学的に不明な点がありますが、同ウイルスが酪農場から近隣の家きん飼養施設に拡散した知見があります2

 乳牛はHPAI(H5N1亜型)ウイルスに感染しやすく、乳中にウイルスを排出する可能性があるため、低温殺菌されていない牛乳を介して他のほ乳類にウイルスを感染させる可能性があります4

 APHISは、約半数のHPAI(H5N1亜型)(クレード*1:2.3.4.4b、遺伝子型:B3.13)ウイルス感染農場から提供された疫学関連情報をとりまとめました。2024年6月8日時点の感染率は平均10%未満、死亡または殺処分した率は平均2%以下でした。また、牛の移動、従業員の他の農場との共用、牛に接触する獣医師などの外部の訪問者が、HPAI伝播のリスクとされるとともに、感染農場のうち80%超が猫を、20%超が鶏または家きんを飼っていました。なお、50%超の農場が洗浄していない車両を他の農場と共用しており、疾病を広げるリスクを軽減するために飼養衛生管理の重要性を訴えました5

 

*1 クレード:HA遺伝子に基づくインフルエンザウイルスの分類

 

2.検査2

 USDAは、生産者が獣医師と協力し、疾病に感染したと考えられる牛の症例を州の動物衛生当局とAPHIS獣医サービスエリア担当の獣医師に報告することを奨励しています。獣医師は、初期検査(A型インフルエンザを対象としたPCR)のために、国立動物衛生研究所ネットワーク(NAHLN)の研究所に低温殺菌されていない生乳および組織のサンプルを提出する必要があります。上記検査で陽性を示したサンプルは、確認検査のために米国アイオワ州エイムズの国立獣医サービス研究所(NVSL)に提出されます。 USDAは、NVSLの陽性検査結果をふまえ、ウイルス遺伝子の塩基配列を決定します。

 

3.遺伝学的情報2, 4

 2024年4月21日、NVSLは、家きんや野鳥で発生している、また、乳牛で確認されたHPAI(H5N1亜型)のクレード2.3.4.4bウイルスについて239個の遺伝子塩基配列を利用可能としました。APHISは、塩基配列データをインフルエンザウイルス遺伝子データベース(GISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data))において定期的に公開しています。

 公開された塩基配列の由来動物種は、牛、猫、鶏、スカンク、アライグマ、椋鳥、ブラックバード、ガチョウです。

 これまでの検査結果によれば、乳牛から分離されたウイルスはH5N1亜型ユーラシア系統のガチョウ/広東省クレード2.3.4.4bであり、野鳥や商用家きん群に感染し、数種の野生ほ乳類と新生ヤギに散発的な感染を引き起こしているウイルスと同じクレードです。

 

4.各動物における発生状況

(1)牛1, 2, 4, 6, 7, 8

 2024年2月、テキサス州北部地域において泌乳中の乳牛にHPAIの症状が確認されました。症状として、飼料摂取量、反すうの減少、泌乳量の急激な低下を示し、それらのほとんどの牛の乳は、初乳に似て濃厚で黄色だったとのことです。感染農場内のHPAI発生率は10~15%で、非常に少ない頭数の死亡(minimal death)を認め、最初の乳牛が感染後、4~6日で発生率はピークを迎え、その後10~14日で徐々に減少しました。また、2024年3月上旬にはカンザス州南西部とニューメキシコ州北東部の乳牛においても同様の症状が確認されました。

 2024年3月、泌乳量や食欲低下などの症状を示しHPAI(H5N1亜型)ウイルスの感染が確認された農場由来の乳牛について、免疫組織学的検査及びPCR(H5サブタイプ)検査により、乳腺細胞などにウイルスの蓄積が確認されました。

 6月13日時点でHPAIウイルス(H5N1亜型)は、これまで計12つの州で101群*2(全て乳牛)確認されています。乳牛でみられる症状はこれまでの報告によれば比較的軽微であり、感染動物は約7〜10日後に回復するとされています。

 

*2 APHISホームページ上では46群、CDCは101群と公表

 

 今回のように重度にウイルスが感染した牛は、上記のように泌乳量の急激な減少により濃厚で濃縮された初乳のようなウイルスを大量に含んだ生乳を泌乳します。また、上記症状と併せて異常に粘着性のある(abnormal tacky)または緩い糞便、嗜眠、脱水症、発熱の症状を示しました。 初期の症例では、泌乳期中期の高齢牛は、若い牛、分娩後の牛そして未経産牛よりも重度に感染する可能性が高く、追加のデータによれば、若い牛にも感染するとされています。

 肉牛群におけるHPAI(H5N1亜型)ウイルスの検査について、APHISは、肉牛生産者が酪農関係者と共有している症状に関する情報をもっていることを確認するとともに、牧場主や獣医師が症状について報告及び必要に応じてサンプルを収集することを奨励しています。ただし、APHISは、現在までにHPAIの症状を示す牛の報告は受けていません。

 

(2)家きんにおける状況2, 9

 米国において、最近家きんにおけるHPAI(H5N1亜型)ウイルスの発生は減少しています。2024年5月31日現在、商用養鶏施設における本年のHPAI(H5N1亜型)発生数は42群です。2023年1月から5月にかけての発生群数は183だったのに対し、2023年(19群)そして2024年(42群)の同時期の発生群数は大幅に減少し、飼養衛生管理とウイルス対策が商用家きん群へのウイルス感染を低下させる上で重要な役割を果たしています。

 

(3)野鳥における状況10

  2021年12月30日以降、米国内の野鳥におけるHPAI(H5N1亜型)ウイルス感染は、1,149郡で計9,499事例が確認されています(2024年は米国内で674事例)(2024年6月11日時点)

 

(4)猫における状況4

 飼養乳牛のHPAI感染が確認されたテキサス州北部の農場内で飼育され、感染牛の初乳および低温殺菌されていない生乳を与えられた猫の死亡が報告されました。症状は、沈鬱、硬直、運動失調、失明、旋回運動、眼と鼻から大量の分泌物が確認しました。2024年3月、HPAI(H5N1亜型)ウイルスに感染した牛から低温殺菌されていない初乳と生乳を与えられた農場敷地内の猫は、おおむね半数が特段症状を示すことなく死亡したと報告されました。同農場内の死亡した猫2頭の脳と肺のサンプルについて、A型インフルエンザウイルス、HPAI(H5亜型)ウイルスそしてH5亜型 2.3.4.4 クレードのウイルスを対象としたリアルタイムPCRを行ったところ、いずれも陽性であったとともに、生乳サンプルと猫の組織由来のウイルスの特定の遺伝子配列を比較したところ、非常に高い相同性又は一致をみました。

 猫のHPAI(H5N1亜型)ウイルスに対する感受性は、世界的によく知られており、感染した猫科動物やその他の陸生ほ乳類に神経学的な症状が現れることが多いとされています。猫のほとんどの症例は、ウイルスに感染した野鳥または汚染された家きん製品を食べることによるとされていますが、今回は感染した牛の低温殺菌されていない生乳と初乳を飲んだ可能性があり、乳中のウイルス量も多いことから、生乳と初乳を与えられたことがウイルスの伝播経路となった可能性が高いとみられています。なお、猫の潜伏期間は短く、症状は感染後2〜3日でみられることが多いとされています。

 

(5)その他の動物における状況11, 12

 HPAI(H5N1亜型)ウイルスは、ヒトの居住地とその周辺に存在し、感染農場で死亡した猫、鳥、その他の動物(アライグマ1頭とオポッサム2頭など)からもウイルスが検出されました。また、APHISは、ミシガン州の一部の感染農場において、鳩、椋鳥、猫、アライグマ、オポッサム、キツネからHPAI(H5N1亜型)ウイルス(遺伝子型:B3.13 )が検出されたと報告しています。

 なお、CDCは、動物感染モデルでのHPAI(H5N1亜型)ウイルスの病因、重症度および伝染性を評価するため、フェレットを用いた実験室内感染試験を行っています。

 

 

1.USDA APHIS(2024年3月25日):https://www.aphis.usda.gov/news/agency-announcements/federal-state-veterinary-public-health-agencies-share-update-hpai

2.USDA APHIS(2024年4月24日):https://www.aphis.usda.gov/sites/default/files/hpai-dairy-faqs.pdf

3.USDA APHIS(2024年4月26日):https://www.aphis.usda.gov/sites/default/files/aphis-requirements-recommendations-hpai-livestock.pdf

4.Eric R. Burrough et al. 2024. Emerging Infectious Disease Journal 30(7), CDC(https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/30/7/24-0508_article

5.USDA APHIS(2024年6月13日):https://www.aphis.usda.gov/sites/default/files/hpai-dairy-national-epi-brief.pdf

6.USDA APHIS(2024年4月21日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/usda-publishes-h5n1-influenza-virus-genetic

7.USDA APHIS(2024年6月13日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/livestock

8.CDC(2024年6月13日): https://www.cdc.gov/bird-flu/situation-summary/mammals.html

9.USDA APHIS(2024年6月19日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/commercial-backyard-flocks

10.USDA APHIS(2024年6月11 日):https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/wild-birds

11.CDC(2024年5月30日):https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7321e1.htm

12.USDA APHIS(2024年6月9日):https://www.aphis.usda.gov/sites/default/files/hpai-h5n1-dairy-cattle-mi-epi-invest.pdf